よろく

何かしらの余録

第九聴き比べ(その9)

10.ティーレマンとハイティンク:期待外れ

今回は大物だが期待外れだった2人のものを。

10.1 ティーレマン

2010 Christian Thielemann, Wiener Philharmoniker & Wiener Singverein.
Annette Dasch, Mihoku Fujimura (Performer), Piotr Beczala (Performer), Georg Zeppenfeld (Performer)

ややゆっくり目の演奏で、楽譜の改編などは別として、最近のスッキリ系とは一線を画した演奏である。ブルックナーの録音や生演奏で抱いていたイメージとはやや異なる(もっとエネルギッシュな演奏かなと思っていた)。1楽章後半のテンポが頻繁に変わるあたりで、テンポが速まりつつクレッシェンドがかかる部分の煽り方なんかはさすが。ただ、全体的にイマイチつまらない。

ティーレマン好きなんだけど得手不得手というか、色々と聴いてみると、ピタッとはまる作曲家・曲とそうでないのでずいぶん差があるなと思う。ベートーベン以上につまらないと思ったのが、シューマンの交響曲全集。まあシューマンは難しいので、うまくやれる方が珍しいといえばそれまでかもしれない。単なる色眼鏡かもしらんけど、ティーレマンはやっぱりオペラ(をやってるオケの)指揮者だなあ。


10.2 ハイティンク

2006 Bernard Haitink, London Symphony Orchestra & London Symphony Chorus.
Twyla Robinson, Karen Cargill, John Mac Master, Gerald Finley.

標準的な現代の第九といっても良いのかもしれないが、どちらかというとその方向性のつまらなさが明らかになっている演奏である。楽譜に忠実で派手なことはやらず、きれいにハーモニーを作るが、ちゃんとヤマは作ろうとしており、激しいところそれなりに激しい。最新のバイエルン放送響とのものに比べると良いが、やはりややつまらない。

 

2019 Bernard Haitink, Chor & Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks.
Sally Matthews, Gerhild Romberger, Mark Padmore, & Gerald Finley.

つまらん。これほどつまらん第九があるかというくらいつまらない。あまりにつまらないので自分の耳を疑い、聴きなおしながら書いているほどだ。


3楽章はなかなか美しいのだが、1楽章102小節の強奏の前のテンポ運びあたりが気持ち悪いなど、色々と受け付けんところが多い。何よりなんだこの精気も覇気も勢いもない4楽章は。器楽部分の歓喜の歌で金管楽器が加わるところあたりは、静かに美しくやりたいのだなと理解できるし、テノールのソロはうまい。

しかし、だ。出だしからピリオディカルの出来損ないような薄い序奏、気の抜けたテンポ、イマイチ盛り上がらない強奏、ハーモニーを重視するわりに聞こえてこない合唱のアルトとテノール。Poco Allegroでようやく興奮の片鱗が顔を覗かせる。細かいことをいえば、バリトンのソロ前の2度目の序奏でなぜか微妙にデクレッシェンドするティンパニ、そのくせバリトンの歓喜の歌ソロ部分のオーボエソロではクレッシェンドが落ちている。ハーモニーがきれいでお行儀は良いが、それだけで曲になるわけではないことがよく分かる。

10.3 総評

有名な指揮者でも、あるいは自分が好きな指揮者でもつまらない演奏はある。まあ仕方がない。しかし、第九は色々とやりたいことや流行がある中で、どうやって調和させるか、何をとって何を捨てるかが問われる作品だなとあらためて感じた。