よろく

何かしらの余録

Shure SE846 gen.2


第2世代が出るというリリースを見て気になったので、SE846を買ってみた。色々な条件で使ってみたところ、割と面白かったのでレビューを書いてみる。

 

1.外観など

           

 

パッケージは素っ気なく、箱を開けても安っぽいわけでもないが高級感が溢れる感じでもない。別にそこは構わない。

 

本体

ハウジングとケーブルをつなげて、純正フォームのイヤピースをつけたところ。第1世代と区別がつかないかも。

2.装着感など

第1世代からの特徴といえるが、SE846はとにかくフィット感が素晴らしい。純正イヤピースを使った場合はもちろん、それ以外のイヤピースでも見事なフィット感は変わらない。イヤピースにかかわらず、ピッタリとフィットするのは、ハウジングの設計が良いのだろう。

そして、フィット感から来る遮音性も非常に高い。ピタッとはまればアクティブ・ノイズキャンセルがなくとも高い遮音性を実現できる。ただし、フィット感と違い、これはイヤピースによってある程度変わる。それでもほかのイヤホンに比べて遮音性は高い。純正フォームのイヤピースであれば、キーボードの打鍵音は聞こえないし、地下鉄で最も騒音が気になる区間でも快適であった。なお久しぶりに一駅乗り過ごした。

もっとも、この高い遮音性はおそらく後述の気になる音質傾向と何かつながっているものと考えられる。

3.音質など

3.1音質の話に入る前に

さて音質はどうか。以前(もう何年も前)、何かクラシックに合う(そして当事使っていたDAPに合う)イヤホンはないだろうかと、色々と試聴していた中に第1世代のSE846があった。音質の傾向は中庸で好印象だったものの、詰まった感じ(純正フォームのイヤピースだと思う)と低音がやや気になった。同じことがいえるかというのが気になる点の一つ。

SE846第2世代を入手する直前には、何本か持っているメインのイヤホンのうち、AKG N5005を使っていた。偶然だが、割とSE846と対照的な傾向の音質であり、N5005を引き合いに出すとSE846も説明しやすいように感じた。

さて、以下の音質の話であるが、基本的には4つあるノズルのうち赤(エクステンド)と白(ブライト)を使ったもの。両者を比べると、白を使うと高音に関する特徴がより強調され、赤を使うと高音の特徴はやや引っ込んで中低音の特徴がより目立つ。ノズルはある種のローパスフィルタのようにも思ったが、低音側にも影響が出る印象。

3.2発音の大事さ

SE846の最も大きな特徴は、高音がどうとか低音がカッコイイとかではなく、全体的に音の立ち上がりは鋭くなく、ヒキもややゆっくり目なところではないかと思っている。

図1にイメージを発音の書いてみた。N5005は、鋭角的に立ち上がって、引きも素早い。これに対して、SE846は丸っこく立ち上がって、サッと消えるのではなく緩やかに音が終わる。したがって、キツさを感じることはなく、重たい音はきちんと重たく発音してくれる。ただ、音源あるいはソロや少人数のアンサンブルではなくオーケストラとなると、鈍重に感じることもあるだろう。

3.3高音と低音

次に、高音〜低音にかけての特徴をみていこう。最初に気づいたのは、一つの音色の中で高音〜低音成分まできっちりと鳴るという点である。そのため、例えば、ピアノの音にN5005では感じられない深みがあるといったことに気づいた。この時は、Matsuev(これもロシアのやらかしで当分生で聞けそうにない演奏家だが)がソリスト、Gilbert指揮のNYPOのラフマニノフピアノ協奏曲2番を聴いていた。前日にN5005で聴いたやつだ。前日に聴いた際は、「Matsuevのピアノってもっと重いと思ってたけど、このホールのピアノはやっぱ音が軽いのか」とテキトーなことを考えていたが、SE846で聴いてみたところ、ちゃんと重い。生で聴いた際の彼のピアノの音と傾向がピッタリと一致する。

おそらく上記の特徴からなのだろう、木管のソロがとてもきれいで魅力的である。後述のようにオケがモゴッとしていても、この音のために使いたくなるほどであった。なお、金管は録音によってかなり違って聞こえる。これはたぶん高音の聞こえ方の特徴である。

音色のもう一つの特徴は、縦に広がって立体感があるというよりも横に広がることがやや気になる。木管やピアノの音は割とうまく縦の立体感もあるのだが、後述の金管とバイオリンのテュッティ(ソロではなく)の音はどうにも横に広がる感じなのである。これも説明が難しいのだが、金管楽器であれば、唇が疲れてべーっと広がってしまった音のようになる(音源がまともなので、そこまで酷くはないのだが、イメージとして)。

3.4ボワッとした中低音

さて、第1世代についても、そして海外の掲示板などでは既に第2世代についても指摘されていたが、やはり低音のボワッとした感じが気になる。正確には低音のみではなく、中音〜低音にかけて空気を満たすように音が鳴る一方で、低音の芯の周りの音も割と聞こえるのである。N5005が、ともすれば「俺の出番は済んだぜ」と素っ気なく音が引いていくので、音源によってはスカッと間が空いた感じがするのと対照的である。始終空気が満たされているため、柔らかめの音の弦セクションが早く動くと、中音部分の動きはやや見えづらくなる。それでも動きは聞き取れるあたりがすごいのであるが、例えば、ブルックナーの木管+弦セクション全体、ホルンといった感じで中音が分厚くなると飽和する。あるいは、マーラーの交響曲3番6楽章の終わりで盛り上がる部分では、さすがに見通しが悪い。

これは、どうも低音の出方の特徴だけでなく、上述の発音の特徴も関わっているのではないかと感じられた。イメージ的には図2のような感じである。

図2ではSE846の上述の傾向の発音で音がたくさん出た状態を模式的に表した。こんな感じで丸っこく発音される音がたくさん重なる。横に重ねて描いているように、1つの音が続く間に次の音が重なることも当然にある。そうすると、全体が丸っこいというか飽和してしまうように感じる。そして、緩い中低音がたくさん積み重なると、飽和してしまう。ただ、上下で重ねていないように、それぞれの音の動き自体は一応きちんと判別できる。そのため、解像度が低いというわけでは決してない。むしろこの傾向で動きが聞き取れるのだから、解像度は高いのだろう。

そして、特にこのように音が重なった場合、前述のように横に広がる感じの高音のバイオリンセクション(ソロではなく)やトランペットは、金属的とまではいかないが、やや金属的な砂粒のような粒子が広がった布とでもいった感じの音になることがある。ややAMラジオっぽい音色にサラサラした粒子が重なる感じとでもいおうか。オーケストラを聴くのにあまり理想的な音とはいえない。

3.5音場と定位の素晴らしさ

ほかの特徴として、音場の広さや定位の安定感という点も挙げられる。音場はしっかりと左右に広い。あまり縦に広い感じではないが、奥行きはきちんとある。そして、定位はとても安定している。その結果、どの学期がどこから聞こえてくるのかはキチッと安定している。トロンボーンの方が前に飛び出す音で、トランペットはやや奥から聞こえてくるという当時のニューヨーク・フィルの金管セクションも見事に再現されていた。上記の音の性格とBAのドライバのつなぎといったことが問題になることもあるが、むしろダイナミック一発といわれても納得するかもしれない。

4.小括

結論的に、フィット感と遮音性、音質の傾向と問題は第1世代と同様であるようにも感じた。もっとも、上の問題があるからといって諦めてしまうのはもったいないくらいの魅力もある。何より、移動の多い私にとって、多少落ちたとしても高い遮音性は魅力的である。というわけで、泥沼のイヤピース探しの旅に出ることになるのであった。次回はイヤピースのお話です。