よろく

何かしらの余録

Amazon Music HDとmora qualitas

1.はじめに

前の記事で書いたように、有料試聴的なものとして、あるいは珍しい作品・演奏を聴く手段としてストリーミングも良いかもしれないと思い、Amazon Music HD(以下、Amazon)とmora qualitas(以下、mora)を試してみた*1海外系のもの試したいけど、アクセス制限かかってるのです。

なお、moraは少し前にトライアルを行ったので、現在では情報が古くなっている可能性があるが私には検証できない。その点はご容赦・ご注意願いたい。収録音源も詳細に公表されているわけではないし、トライアルは一度きりなので、その後満足に改善されたかどうかは、サブスクリプションで1ヶ月は契約してみないと分からないのが困る。何度もトライアルさせろとはいわんけど、1週間のプランとかを作ってくれないかな。

2. 使い勝手・利便性

2.1 ラインナップ

まずは、Amazonは 「6500万曲以上」をうたっている*2。moraの方は見当たらない。ただ、少なくともクラシックが好きな人間にとって、「曲数」はさほど参考になる情報ではない。そもそも、単位が分からない(ベートーヴェンの交響曲5番は普通「1曲」だとも思えるが、トラックで数えているなら「4曲」になる)し、曲数が増えそうなポップスがいくら入っていても関係ない。さらに、2.2でみるように同じ録音の再発売をダブルカウントしているのであれば、なおさらどうでもよい数字になる。

というわけで、実際に検索してみるとのが一番。

moraは私がトライアルをした時点では、「ブルックナー」で31枚のアルバム、"Bruckner"で4枚のアルバムが出てきた。ベルリオーズ、Berliozでも試したが、さほどたくさん出てきたわけではなかった。重複も多い(Colin Davisの幻想交響曲なんて何枚出てきたか)。私が試した時点では、全般的に十分とはいい難いラインナップであった。

他方、Amazonは、今"Bruckner"で検索してみたところ、ノイズが多すぎたので、"Bruckner symphony"で試してみたところ・・・300枚くらいで数えるのを諦めた。もっともっとあるだろう。もちろん、重複もある。全般的に、Amazon本体で(CDであれデータであれ)試聴できるものは対象になっているのが多いようである。

2.2 検索性・探しやすさ

検索性という点では、どちらも同じ問題を抱えている。まず、英語と日本語で大きく検索結果が異なる。moraについては上に書いたとおりだが、Amazonも"Bruckner symphony"であれば数え切れないほど出てくるが、「ブルックナー」で検索すると、関係ないものを除いて約70枚程度になってしまう。他方で、日本語でないと出てこないものもある。めんどくさい。

これは、各ストリーミングサイトの問題というよりも、そもそもタグ情報がグズグズなせいだろう。ストリーミングではなく配信サイトで購入してもタグ情報は結構ひどい。Artistとcomposerを区別していないせいでマーラーとバーンスタインが共演しているかのようになっていたり、マーラー3番のartistがニーチェだったりする。表記の方法も色々で、"GivenName FamilyName"となっているものもあれば、"FamilyName, GivenName"となっているものもある。あまりに大量なので、タグ情報を整理してくれというのは現実的ではない。CDDBのようにユーザ側で整理・入力し直したものを共有できれば良いのだが、ストリーミングは専用アプリを用いた閉じた世界なので、事業者が対応してくれないとどうにもならない。

次に、検索結果からお目当てのものや気になるものを探しやすいかどうか。これもどっちもどっちで、正直いずれもiTunes見習えよと言いたくなるほど探しにくい。まず、ソートできない。がんばって上から下まで眺めていくしかない。moraは多少絞り込みができる点が優れているが、絞り込むほどラインナップが豊富ではないという残念なお話。

こちらもタグ情報と関係があるのは、クラシックの場合はConductorとOrchestraを分けて管理してくれないと有用なソートも難しいという点だろう。より深刻なのは、前の記事でも指摘したインセンティブの問題かもしれない。おそらく表示順は一致度と「お勧め度」のような変数で決まっているように見受けられるところ、後者はビジネス上の考慮から設定されるのではないかと推測できる。ECサイトでやってることをストリーミングでやらないというのは考えにくい。そうすると、ユーザ側でソートが自由にできると嬉しくない。Amazonくらいのラインナップになると、さすがに見つけられないことによるデメリットも多く指摘されるだろうから、もしかしたら対処するインセンティブも出てくるかもしれない(期待に過ぎないが)。

2.3 その他設定など

オーディオ関係の設定は両方とも異なる点で使いやすかったり、そうでなかったりする。

Amazonで問題なのは、再生データを流すDAC・アンプを選ぶ画面が何かを再生しないと出てこない。つまり、再生前に選べない。なんやこれは。moraはそんなアホなことは起きなかった。

他方で、私が試した時点では、moraはシステムのデフォルトと異なる再生機器を設定できなかった(Mac版)。システム音声と音楽は別のところに流す(システム音声は本体や別のスピーカー、音楽はDACアンプ経由でヘッドフォンとか)ことも多いだろうから、これは不便。なお、排他モードは両方ともある。Amazonに限っていえば排他モードを使っても音質に有意な影響は観察できなかったけれど。

2.4 PCのリソースの食い方

いずれもPCのリソースや帯域の占有は大した問題ではなかった。Audirvanaで長い楽章を再生すると1.5GBくらいメモリを食って、やや古いPCであればCPUも奪われてしまうが、いずれもそんなことはなかった。moraでは最大でも1GB程度のメモリの占有、2015年のモデルでもCPUは問題にならない程度にしか使わない。Amazonはもっとメモリを使わないようで、今も聴いているが150MBほどだった(タイミングにもよるかもしれない)一方、CPUは多少こきつかっている(とはいえ、せいぜいAudirvanaの3分の1〜5分の1程度)。

通信リソースも気になるところだが、さすがによく考えられている。Amazonの方はどうも最初にトラックを丸ごとバッファに放り込んでしまうらしく、楽章の途中でほぼ通信せず。moraの方は確認しなかったが、大した通信環境でなくともやはり円滑に再生された。

3.音質

音質の点では明らかにmoraに軍配が上がる。これは既にネット上で多くの人が指摘しているとおり。いずれもflacを使っているが、アプリの性能の差なのかもしれない。Amazonの方は、十分聴くに耐える音質ではあるが、ややぼんやりした音になる傾向がある(特に古い音源だとその傾向が強い)。また、音源によっては特に金管の音が金属的になる傾向がある。

Audirvanaで手持ちの音源と同じものを再生して比較した感想は次のとおり。アンプとヘッドフォンは同じでも、Audirvanaで同じ音源を再生した方が音質はよかった。

moraは、Audirvanaと比較しても十分に良いが、やや味付けがなされているように感じた。Audirvanaの方が引き締まって聞こえる。また、高音でノイズというか、ややとがったようなざわついた感じがした。他方、中低音、中音よりのチェロの音がスカッとしていたのが印象に残る。余韻の長さも異なる。比較に使ったのは以下の音源。

Amazonは、上で述べたとおりちょっとぼやけるのが気になる。比較に使ったChaillyのチャイコフスキー5番だと、例えば冒頭の弦楽器の引き締まり方が違うし、盛り上がったところで音が拡散してしまうように聞こえる。ラウンドネスノーマライゼーションは外しているが、色々とアプリ側で何かしているのではないかと感じる。他のジャンルの音源で比較しても傾向は同じで、最も気になるのがぼんやりした感じであった。とはいえ、演奏の特徴を掴むことはできるレベルではあるし、十分に聴くことはできる。有料試聴だと割り切るなら全く問題ない。

4.結論

というわけで、moraの音質でAmazonのラインナップであれば最高なのだがそうもいかない。値段はいずれも月額でAmazon 1780円、mora 1980円と大差はない。結局、私が最も求めているのは有料試聴のような役割であり、豊富なラインナップが決め手になる。

そのようなわけで、moraはトライアルで終わりにした。ラインナップがあまりに貧相だったのだ(前述のとおり今はどうかを試す手段はない)。トライアル時によく聴いていたベルリオーズの幻想交響曲だと、5枚か6枚くらいしか持ってない音源がなく、ブルックナーあたりだと自分のライブラリよりも少なかったので、結局ほぼ使わなくなった。他方、Amazonはまだトライアル期間だけど、おそらくそのまま使い続けると思う。1ヶ月に数枚聴けば元はとっていることになるし。

今はAmazonでロジェストヴェンスキー・ソ連文化省オケのブルックナー3番を聴きながら書いているわけだけど、こんなゲテモノちょっと変わった録音をいつでも聴けるのはなかなか素晴らしい*3。何しろ1枚3500円で買うかと言われると微妙だが*4、聴いてみたいのは確かなのである。

*1:ぶっちゃけていうと、酷そうな演奏を怖い物みたさ(聴きたさ)で試してみるという誘惑も否定できない。

*2:Amazon Music HDのサイト

*3:なお演奏の方は割とまともである。特に3楽章はなかなかの出来で、4楽章は冒頭から咆哮しており素晴らしい。録音はひどいわけではないが、ところどころ左右がぶれていたり、金管の最大音圧に耐えられていない箇所もある。

*4:と思ってAmazon本体で調べてみると中古は1398円であった。