よろく

何かしらの余録

ダウンロード音源販売サイトにおける毀損ファイルのリスク

I. はじめに

※この記事は、元々想定読者を考えて英語で書いた記事を日本語に訳したもの。英語版はこちら。I wrote the original post in English, as shown below.

 

yorokuyadoroku.hatenablog.com

 

最近は、CDを買うのをほぼ止めて、ダウンロード販売にもっぱら依存している。たいていの場合は満足に聴くことができるが、時々、ダウンロードしたファイルが壊れていることがある。CDの場合、似たような問題を経験したことはない。1500枚以上買っているが、中古CDに物理的な傷が付いていたといったものを除いて、録音の一部が欠けているとかノイズに置き換わっているといったことはなかった。

II.ファイルが壊れているリスクはどのくらいあるか?

1. 壊れたファイルの例

下のfigure 1は壊れたファイルの例である。Presto Musicで購入したシャイーのブルックナー全集に含まれているブルックナー3番1楽章の18:25から19:05の波形を示したものである。  

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Figure 1: The faulty file of Chailly's Bruckner 3, movement 1

これを見ると、赤い線で囲った18:33から18:35にかけての部分が真っ白になっているのが分かる。つまり、この曲を聴いていてここに達すると、突然1秒弱ほど音が途切れることになる。たった1秒弱と思うかもしれないが、実際に聴いてみると誰でも分かる。何しろ、迫力のある1楽章の終わりに向けて音楽が何度も盛り上がっていくところでブツッと切れるのだ。もちろん、ダウンロード自体に問題があった可能性をチェックするため、再ダウンロードしたものも検証している。

本来はこの部分はどうだったのだろうか。Figure 2は、同じ録音の壊れていないファイルから同じ部分の波形を示したものである。18:33から18:35にかけて、きちんと音がつながっているのがみてとれる。なんでこれが手元にあるかというと、全集の前にシャイー・ベルリンドイツ交響楽団*13番だけが入ったアルバムを既に買っていたからである。皮肉なことに、買っておいてよかったことになる。

 

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Figure 2: The correct file of Chailly's Bruckner 3, movement 1

私はまだこの問題をPresto Musicに伝えていないので、もし買おうとするなら注意した方が良いだろう。ちなみに、シャイーのブルックナーは素晴らしく、特に3番は第3稿の演奏でも最も良いものではないかと思っている(今のところ)。

2. 筆者が購入したファイルにみる毀損ファイルのリスク

それでは、どのくらいの頻度でこのようなファイルに出会うことになるか。Table 1は筆者が購入したファイル(アルバム単位)について、壊れたファイルを含む頻度を示したものである。左列は店の名称、中列は毀損ファイルを含むアルバムの数、右列は購入したアルバムの数である。

stores album w. faulty files total albums purchased
HD tracks 1 396
Presto Music 4 135
Channel Classics 0 24
e-onkyo 0 13
Native DSD 0 7
mora 0 3

Table 1: Overall risk of faulty files

Presto Musicを除いて、リスクは十分に低いといえるだろう。他方、筆者の経験からは、Presto Musicで購入する際は要注意ということになる。実際、十分な数を購入しているHD tracksと比較してみると、table 2のとおり、χ2検定とフィッシャーの正確確率検定のいずれによっても、Presto Musicの方が毀損ファイルが含まれる頻度が有意に高いことが分かる。

 

stores album w. faulty files album wo. faulty files Total
HD tracks 1 395 396
Presto Music 4 131 135
Total 5 526 531
Pearson Chi-Square test 7.9295   Pr=0.995
Fisher's exact test 0.016  
One sided Fisher's exact test 0.016  

Table 2: Statistical test of HD tracks and Presto Music's fauty file risk

3. Presto Musicは危険か?ーリスクの所在

もっとも、以上からPresto Musicが他のサイトより「危ない」との即断するのは適切ではない。第1に、HD tracksとPresto Music以外のサイトではまださほどの数を購入していない。そのため、この2つ以外のサイトのリスクは正確には分からない。筆者が幸運だっただけかもしれない。

さらにいえば、Presto Musicには他にない特徴がある。Presto Musicは、他よりも元々CD(あるいはレコード)として販売されていた音源をCD品質のダウンロードファイルとして販売しているものが非常に多い。このような場合、CDを買うか、PrestoでCD品質のファイルを買うという選択肢になることが多い。筆者には詳細は分からないが、販売用のマスターファイルの作成・入手の過程が、最近のCDとは別にハイレゾのファイルを販売する場合と異なるのではないかと思われる。後者の場合、レーベルがマスターファイルを作成・送付しているようであるが、前者の場合はどこで作られているのか分からない。実際、Presto Musicで購入した毀損していたファイルを含むアルバム4つのうち3つはこうしたCD音質・音源のものであった。こうしたものを除いて、純粋にハイレゾのファイル(リマスタリングものも含む)のリスクをみると、150から200に1つに問題があるものと推定できる。

IV. 壊れたファイルに出会ったら

最近3ヶ月で3つのアルバムに壊れたファイルが含まれていたという程度には不幸な筆者であるが、連絡したHD tracksもPresto Musicも両方ともカスタマーサービスには満足している。簡単なメールを送ると、迅速に返事が来たし、提案内容も合理的で満足のいくものであった。だからこそ今でも買うのだが、不良品のリスクを抑えきれない(それには膨大なコストがかかる)以上、カスタマーサービスで対応するのも一つの手だろう。

したがって、もし壊れたファイルに出会ったら、さっさとカスタマーサービスに連絡するのが良い。英語でメールを書く必要がある(と思う)し、音のことを言葉で説明するのは難しいが、躊躇する必要はない。彼(女)らは下手な英語には慣れているはずだ。 

V. 結論

  1. 小さいものではあるが、音源のダウンロード購入(ハイレゾであれ、それ以外であれ)、CDよりも高いファイルが壊れているリスクがある。
  2. そのリスクの大部分は、筆者の経験からはCD品質のファイルによるものである。おそらく、マスターファイルの作成プロセスか、チェックのプロセスに問題がある。特に、こうしたファイルが多いPresto Musicでは要注意。
  3. ハイレゾのファイルはそれに比べるとリスクは小さい。ただし、CDのように「まずそんなものはみない」というほど小さくはない。普通のリスナーにとっては十分に小さい。例えば、1月にアルバム1枚ほど買うのであれば、10年から15年に1回、壊れたファイルに遭遇する。しかし、マニアであればちょっと無視できないレベルである。

*1:Deutsches Symphonie-Orchester Berlin. 当時はRadio-Symphonie-Orchester Berlinという名称