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何かしらの余録

第九聴き比べ(その4)

5.ドイツ系オケもう少し:クリュイタンス、ケンペ、ケーゲルとジュリーニ

5.1序

引き続き第九聴き比べ(その4)。年代を考えるとクリュイタンスは前回に書くべきだったのだが、忘れていたので今回に。今回の4枚をどう並べるか(そもそも共通項は第九とドイツ系オケだけだ)迷ったので、年代順にする。

過去記事はこちら。

 

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5.2 聴き比べレビュー

André Cluytens, Berlin Philharmonic Orchestra & Chorus of St. Hedwig's Cathedral.
Gré Brouwenstijn, Kerstin Meyer, Nicolai Gedda & Frederick Güthrie (1957).

最初に何回か聴いた時には、録音の悪さもあって、なんともつまらん演奏だなあと感じた。実際、1楽章の最初の方は必然性がよく分からない遅めのテンポ設定のせいで間延びしているように聴こえる。ただ、何回か聴いていると、1楽章中間部や2楽章の緊張感や勢いには捨てがたい魅力があることに気づく。フランス系指揮者がドイツ系オケを振った古い録音ということで何か妙に期待したのだが、変な部分はなく、ベスト盤にはなり得ないが、ある意味正統な魅力のある演奏。

Rulolf Kempe, Münchner Philharmoniker & Philharmonischer Chor München.
Urszula Koszut, Brigitte Fassbaender, Nicolai Gedda & Donald Mclntyre (1973).

聴く環境によっては、金管の「とがってるけど丸い」不思議な感じが強調される。もちろん、これはミュンヘン・フィルの特徴というわけではなく、録音の特徴だろう。全体的に、聴く環境でかなり異なった感じになる面白い録音である。演奏は、全体的に引き締まったキビキビしたもので、迫力と爽快感が同居しているとでもいおうか。低弦がゴリゴリと非常に力強く、特に4楽章の器楽部分で心地よい。あと、2楽章の272小節あたりからトランペットの一拍目をすごく強調しているのが印象的だった。

Herbert Kegel, Rundunk-Sinfonieorchester Leipzig & Gewandhaus Chor.
Venceslava Hruba-Freiburger; Rosemarie Lang; Dieter Schwartner; Hermann Christian Polster (1987).

これも東ドイツらしい音なのだが、緊張感を保ったなかなかのよい演奏である。どうも録音で聴く「東ドイツらしさ」は録音と録音会場の反響と関係があるのではないかと思いつく。高い周波数が抑えられているのと、反響がかなり強いのはコンヴィッチュニーの演奏とも共通する。そんなわけで、クリアな傾向+高音がはっきり出る機器で聴くと結構印象が変わるのでないかなと。

Carlo Maria Giulini; Berliner Philharmoniker; Ernst-Senff-Chor.
Julia Varady; Jard van Nes; keith Lewis; Simon Estes (1989).

4楽章の合唱の音量がピークになる部分で少しノイズが入っている、やや残念な録音。DGなんだけどなあ。ぐでんぐでんなくらいに遅くて濃密な演奏を期待して買った(失礼な)のだが、1楽章で良い方向に裏切られる。確かに遅めのテンポではあるが(ものすごく遅いわけではない)、必然性はちゃんと感じられる。3楽章などはむしろこれが正しいと思うくらい。ただ、4楽章の後半は少しグダッてるというか、やや早漏のラッパ吹き的な濃密さに欠けた薄い演奏になっている。

 

5.3 総評

まとまりのない括りなので総評も何もないが、聴く環境(機器など)で相当変わることが感じられた一群とはいえる。特に、ケンペのものが以前に聴いた時よりもずっと魅力的に感じられたのが面白かった。前回聴いたのが5年以上前なので、こちらの環境も耳も好みも変化しておりますわな。また、東ドイツ(に限らないが)の微妙な質の録音は、クリアな音を追及した環境で聴くと(今回だとSP1000MとK812)良さが浮き立つのも個人的には新たな発見であった。